(NHKきょうの健康 2006年1月号より)
舌が痛みます
(読む総合病院: なんでも健康相談 口腔外科)
一昨年の3月末に、急に舌の上や横が痛み始め、歯科、耳鼻咽喉科、産婦人科、神経内科、皮膚科で調べてもらいましたが、原因がわかりません。女性外来の検査では「女性ホルモンが少し足りません」と言われました。現在は口腔外科で処方された黄連湯をのんでいますが、原因がはっきりわからず、不安です。
●50歳代・女性
口の中では、虫歯のように原因がはっきりした痛み以外にもいろいろな痛みが生じます。その中には原因がわかりにくいものもあります。そのため、さまざまな医療機関を受診しても「原因不明」、「異常なし」などとされることがありますが、口の痛みには独特のつらさがあります。「これだけ医学が進歩したのに」「自分だけこんな病気になってしまった」と思い悩んでおられるかもしれません。
検査では何の異常も認められないにもかかわらず、舌がやけどをしたような、あるいは歯にこすれるようなヒリヒリ、ピリピリした痛みが何ヶ月も何年も続く「舌痛症」という病気があります。40〜50歳代の女性に多いとされていますが、更年期との関連はないと考えられています。症状には波があり、起床直後や午前中は比較的落ち着いていますが、夕方や夜にひどく痛むことが多いようです。この痛みは食事中や会話中などはあまり支障がなく、何かに熱中している間は痛みを忘れる場合もあります。しかし、重症の場合は耐えがたい痛みになることもあります。「舌がん」を心配される患者さんも多いのですが、舌痛症が原因でがんになることはありませんので、ご安心下さい。
約30年前から、この病気には抗うつ薬が効くことがわかっています。ところが従来の抗うつ薬は、鎮痛効果が優れているものの、「うつ病の薬」と言う誤解や、副作用として強い眠気や口の渇きなどが出やすいため、舌痛症の薬としてはあまり普及しなかったようです。現在はSSRIやSNRIという副作用の少ない薬も出ており、舌痛症に対する有効率は約70%です。また、1つの薬が効かなくても他の薬が有効な場合もあります。薬の効果には個人差があり、すぐには効果が得られない場合もありますが、早期に痛みが取れて、とても元気になる患者さんも大勢おられます。口腔外科の医師に相談されてみてはいかがでしょうか。
ある患者さんは、「気にしすぎるから痛いんじゃなく、痛いから気になるんです」とおっしゃっています。舌痛症の原因は不明ですが、精神的な病気ではなく、口腔の感覚神経がいわば「電話回線の混線状態」を起こしている、つまり痛まなくてもいいときに痛みの神経回路が勝手に痛みの信号を発している状態ではないかと考えています。この余計な信号を制御するために抗うつ薬が必要なのです。この「混線」は睡眠不足や過労などで悪化しやすいので、規則正しい生活を心がけることも大事です。
豊福 明(とよふく あきら)
福岡大学医学部歯科口腔外科講師
1965年生まれ。90年九州大学歯学部卒業。専門は歯科心身医学、特に口腔領域の慢性疼痛、咬み合わせの異常感、ドライマウス、口臭。
(2007年3月より、東京医科歯科大学に勤務)
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NHK出版の許諾のもとに、「きょうの健康」2006年1月号に掲載されたものを転載しました。
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