踊る歯科心身症ネット
踊る歯科心身症ネット
歯科心身症
口腔症状と脳機能
研究紹介
情報ステーション
医療関係者
舌痛症とミルナシプラン
口臭恐怖症とSSRI
歯科心身症の研究


顎関節症と線維筋痛症の合併例に対するSNRIの効果


研究の背景と目的

顎関節症は、「口を開けようとすると痛い」「あごを動かすときに音がする」「あまり大きく口が開かない」「かみ合わせがおかしい」などを主訴とする疾患である。顎関節のずれや炎症などの器質的な異常が原因となるほかに、検査をしても器質的な異常が認められない症例が少なくない。 このような歯科心身症の範疇に入る顎関節症の原因は明らかになっていないが、舌痛症などと類似の神経伝達回路の不具合があると思われる。一方、線維筋痛症候群(FMS)は、全身の広範囲に原因不明の慢性的な激痛が走る疾患で、女性に多発する。 Korszumらは、FMSあるいは慢性疲労症候群92名の調査で42%が顎関節症、46%が過敏性大腸症候群、19%が間質性膀胱炎を併発していたと報告している(Oral Surg Oral Med Oral Radiol Endod, 1998)。その報告によると、線維筋痛症と顎関節症を併発する患者において、全身の痛みが先に発症した割合が67%で、顎関節の痛みが先であった割合は17%であった。さらには、多くの顎関節症を併発している患者(63%)は、咬合治療(スプリント療法など)を受けていたが、効果がなかったと記載されている。
今回、顎関節症とFMSを併発している症例に対して薬物による治療を試みた。


症例報告

症例: 30代の主婦

主訴: 咬合不全感、姿勢の保持困難、全身のこわばりと疼痛、倦怠感

既往歴: 特記すべきことなし

受診経緯: 3X歳時に娘の歯列矯正の相談のため矯正歯科を受診した際「お母さんの方が矯正が必要」と勧められた。術前矯正を開始し、3年後に某形成外科にて外科的顎矯正術を受けた。術後、肩・背中・腰など全身の痛みや朝のこわばりが出現し、歩行や姿勢を正す時も不自然にギクシャクするようになった。咬合の違和感、口周囲の筋肉のこわばりのため、咀嚼・会話が上手くいかず、痛みや全身倦怠のため不眠となり、日中は臥床しがちとなった。家事もできず1日中痛みを訴える患者を見かねた夫が某大学心療内科を受診させた。

フルボキサミン 50 mg/日、アルプラゾラム 2.4 mg/日を処方されたが効果なく、数回で治療中断となった。矯正歯科医から某大学神経内科を紹介され受診したが、神経学的には特に異常なしとのことであった。咬合へのこだわりから術後矯正を繰り返したが、むしろ症状が悪化した。最初の矯正手術の4年後に当科を紹介受診となった。

検査所見: 画像所見・血液検査上は特に異常なし。顎運動障害(+) 、顎 関節雑音(+)、全身広範囲にわたる筋痛(+)、疲労感、 睡眠障害、抑うつ気分、visual analog scale (VAS) 100mm、Zungの自己評価式うつ病評価尺度(SDS) 70点、multiple tender points (14/18) 、tender point palpation score (TPPS) 32点

診断: 顎関節症(歯科心身症)、線維筋痛症

薬物治療経過: SNRIであるミルナシプラン30mg/日で投薬開始10日後に、背中と腰の痛みがわずかに軽減したが、口腔の違和感の改善がなく、患者さん自身が早くこの違和感と痛みをとりたいという強い要望があり、アミトリプチリン 10mg/日に変更した。しかしながら、抑うつ気分と全身の疲労感が悪化したため、3日間でミルナシプランに戻した。ミルナシプランの最初の処方から1ヵ月後には軽い運動や家事などができるようなり、頭痛や肩こりがよくなってきている自覚があったが、口腔の違和感はしつこく残っていたため、最初の投薬から6週間後にミルナシプランを45mg/日へ増量した。増量により腰痛や唇のしびれ感がさらに改善してきたが、口腔の違和感は改善せず、患者の訴えがそこに集中したため、パロキセチン 10mg/日に変更した。変更5日以内に頭痛・悪心・重苦しい感情や感覚が出現したため、ミルナシプラン 45mg/日へ戻した。最初の投薬から2ヵ月後に60mg/日に増量した。身体症状はさらに改善し、首の痛みも半減した。90mg/日に増量すると口腔の違和感の減少を患者が自覚するようになり、さらに120mg/日へと増量した。問題となるような副作用はなく、患者自身が症状の改善をさらに自覚してきた。口腔の違和感はまだ残存するが、初期に認められたいらいらした大声での症状の訴えが、おだやかな口調で訴えるようになった。投薬開始から6ヵ月後には、初期に100mmだったVASが40mmまでに減少し、ZungのSDSスコアも70点から32点へと減少した。さらには、線維筋痛症のスコアであるTPPSが32点から17点へと減少した。トレドミン120mg/日の処方で安定した状態が継続している。



三叉神経の走行

図 薬物療法開始後の治療経過


考察: 当初、抗うつ薬の処方に抵抗感が強かったが、増量にともない明らかな症状改善(特に、120mg/日への増量で著効)があり、問題となる副作用がなかった。この症例において、ミルナシプランは顎関節症と線維筋痛症の両症状に効果的であった。さらには、患者の気分の改善作用が認められ、穏やかな態度(静穏作用)と前向きな考えに変わっていった。歯科心身症の場合は、患者の訴えや要望が強い傾向があり、医師と患者の間に信頼関係を築かないと良い結果を得ることができない。精神科的な薬物治療の場合は、安易に薬剤を変更せず、速やかに増量することが重要と思われるが、歯科心身症の場合はその実践が容易ではない。ただし、高用量のSNRIによって症状の改善が認められた意義は高く、十分な効果が認められない場合は 100mg以上の増量を試みる価値があると思われた。


(Hum Psychopharmacol. 19: 357, 2004)

 大学病院の歯科口腔外科で長年にわたり歯科心身症の治療を行っている管理人の研究の一部を紹介。  顎関節症と線維筋痛症の合併症に対するSNRI ミルナシプランの効果に関する1症例の紹介。
リンク 管理人
利用規約
踊る歯科心身症プライバシー
あゆみ 受診案内
Copyright (C) 2006-2008 Atoyofpsd.net All right reserved.