かみ合わせの異常感(咬合異常感)の治療方法
治療のターゲットは末梢でも「こころ」でもない。「口腔感覚の歪みの修復」すなわち混乱した脳内情報処理過程の安定化にこそある。
1. まずは歯の治療を中断する
「かみ合わせが悪いのなら、歯並びを治せばよいではないか」といった短絡的な発想では治すことができません。なぜかというと、問題は歯の形態や並びなど歯科治療技術的な面ではなく、患者さん本人の脳内情報処理過程、すなわち「口腔感覚の認知」の歪みにあるからです。したがって、本症の治療においては、一旦むだな口腔内の処置を休止してから、まずは薬物療法によって高次中枢の安定化を図っていくことが必要です。
プラスチックの仮歯や銀歯を外したままという状態で受診される患者さんも多いですが、その治療はしないで1-2ヶ月の間は薬を処方します。薬の効果があれば、その後に普通通りの歯の治療をしても今度はたいていの場合で違和感を覚えることなく上手く行くようになります。
逆にこのステップを飛ばして歯の処置を続けていくと、その都度新たな違和感が脳に伝達されることになり、いつまでも高次中枢を安定させることができません。
 
(左の写真) 「この歯が悪い」と器質的なものに原因を求め、患者さんの訴えに沿った治療を繰り返すと、症状が拡大、固定、増悪し治療がますます難しくなります。
(右の写真) 繰り返し作製されたマウスピース(スプリント)。顎関節症の治療でかみ合わせの高さ調整のためにマウスピースが使われることもしばしばありますが、この病気の場合、いくら調整や作り直しを繰り返しても”合わない”、”かえって気持ちが悪い”ことが多く、なかなか上手く行きません。
2. 数ヶ月は薬物治療を中心とする
かみ合わせの原因となっている脳の高次機能を安定化させるのに抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬が有効です。
今までの経験ではアミトリプチリン(トリプタノール錠)など三環系抗うつ薬と抗不安薬の併用が最適でした。かみ合わせの異常感がなかなかとれない場合、三環系抗うつ薬に少量のペルフェナジン(ピーゼットシー錠、トリオミン錠、トリラホン錠)、リスペリドン(リスパダール錠)など少し強めの安定剤を併用すると良い結果が得られる場合があります。
SSRIやSNRIでは副作用は少ないですが、かみ合わせに関する症状の改善がアミトリプチリンに比べて弱い印象があります。しかしながら、副作用の訴えが強いために、三環系抗うつ薬が使えなかった本症患者に120mg/日のミルナシプラン(トレドミン錠、SNRI)で症状の改善が得られたケースを経験しています。三環系抗うつ薬の副作用に過敏な症例には、SSRIやSNRIの増量を試してみる価値があります。
本疾患に対する薬物の効果には残念ながら個人差があります。その患者さんごとに脳内で起こっている回路の混線、およびそこから派生する咀嚼制御のくるいが微妙に異なるようで、薬物で全員が治るというところまでは確立されていません。
薬がよく効いて、咬合の感覚が元に戻り、頭痛やふらつきなどのいろいろな症状が治まれば、中断していた歯の治療を慎重に再開していきます。
一旦治ってしまえば、将来虫歯や歯周病で歯の治療を受けることになってもまず心配は要りません。
「抗うつ薬の種類や特徴」、「抗精神病薬の種類や特徴」、「抗不安薬の種類と特徴」については口腔症状と脳機能の中で説明します。
抗うつ薬による咬合異常感の治療研究成績は研究紹介のコーナーに掲示予定です。
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